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 新見南吉の名作,『ごんぎつね』の登場です。この作品は,もう長い間,小学校4年生の国語の教科書に掲載されてきました。ですから,多分,5年生以上のお友だちは,
「なぁんだ,このお話,知ってる!!」
って思うことでしょう。でも,お話というのは不思議なもので,自分の目で文字を追って読む時と,お友だちが読んだのを聴く時と,先生の朗読を聴く時とでは,それぞれにちがった感じを受けるものです。みなさんがよく知っている作品だからこそ,そのことを強く実感していただけるのではないかと思っています。
 ところで私は,このお話の主人公「ごん」が,いとおしくてたまりません。それはきっと,「ごん」が,幼い頃の私自身に重なるところが大きいからだと思っています。「ひとりぼっちのこぎつね」は,その寂しさゆえに,周囲の気を引こうと,いろいろといたずらをします。そして自分では,それがどんな大変なことをしでかしてしまっているのか,いたずらをしている時には気づいていません。事が起きてしまって,やっとこさ,その重大さに気付きます。そしてその失敗をつぐなおうと一生懸命やったことが,次の失敗につながってしまいます。
 善悪の判断がまだつかない「ごん」が,誰からも彼の一つ一つの行動の善悪を教わる機会がない中で,物語が進行し,ラストの悲劇へとつながっていきます。
 大人になった私は,この作品を読みながら,
「誰か,ごんに〈そんなことしたら大事件になっちゃうぞ〉って教えてやれよ!そもそも私たちの暮らす世の中が,「ごん」のような人を見て見ぬふりをしているようなことがあったら,そりゃぁ冷たすぎるだろう!」
という考えが胸中を支配し,いてもたってもいられなくなります。
 ただ,幼い頃の私と「ごん」のちがいが,一つあります。それは,私には幸いなことに,周囲にきちんと善悪を教えてくれる人たちがいたということです。故に私は今,
ここに生きることができています。
 今,世の中では人と人とのつながりがどんどん希薄化しています。他人は他人,下手に関わらない方がよい,そんな風潮が,見て見ぬふり,無関心を助長している気がしてなりません。「ごん」のような悲劇を,私たちの暮らす社会で起こさないようにするために,私たちに何ができるでしょうか?
 きっとその第一歩が,悲劇へと向かってしまった「ごん」のあゆみの一つ一つをイメージし,そこで何かを感じることなのかもしれないと,私は思っています。
 無関心は,目の前の出来事に心が全く動かないこと,心が麻ひしてしまっていること,あるいは感じることを無理やり抑え込んでしまっていることに端を発します。
 とはいえ私もなかなか心が動かず,周囲に悲しい思いをさせてしまうことが多くて反省をするのです。そんな時は,誰かの朗読を聴きながら,お話の世界に心をあずけ,意識して心を動かしています。心の運動ですね。
 「ごんぎつね」は,こうした「心の運動」にはもってこいの作品です。一度聴いて心が動かなかったら,何度か繰り返し聴き返してみてください。
「ごん,そんなことしちゃダメだよ,あぁ,あぁ、,あぁ……」
そんな感覚が生まれてきたら,きっと実生活でもさまざまな目の前の出来事に,心が動き始めます。そんな朗読ができているかどうか……。それはみなさんが判断して,私に教えてくださるとありがたいです。
 それではみなさん,お話の世界をお楽しみください。
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