四人一首は,視覚障害者のための百人一首の到達点ではなく,あくまで日本文化や百人一首の世界への入口のひとつです。
 京都ライトハウスから販売されているバリアフリーかるたの競技台は,十枚の札が並べられるように作られています。この台には,慣れてきたら自陣五枚,相手陣五枚の札の並びを覚えて対戦してほしいという,百星かるた会を創設したS親子の願いがこめられています。
 かつて南沢さんが四人一首をゲームの形にするまでは,十枚の札をかるた台に並べて取る形が,視覚障碍者の百人一首の主流でした。しかし,その形を視覚障碍者に紹介すると,
「こんな難しいことをやらせるなんておかしい!」
「目の見えている人と同じことを視覚障碍者に求めるのはナンセンスだ!」
という声とともに,大きな反発が起こりました。
 ところでドラネコ君は,四人一首を楽しみつくしているうちに,もう少し高度なことをやってみたくなり,京都ライトハウスの競技台に十枚の札をランダムに並べてその配置を覚え,このページに公開されている四人一首の体験用音源を再生させて札を取ってみました。驚いたことに,これがとても楽しかったのです。
 それではとばかりに調子に乗ったドラネコ君は,今度は二十枚の札を並べてその配列を暗記してみました。時間はかかりますが,何とかなりそうです。
 人間の脳味噌というのは,その人その人の置かれている状況の中で,鍛えれば鍛えるだけ徐々に発達していくことを知りました。
 その実感は驚きであり,今までできないと思っていたことができるようになる喜びでもありました。
 ドラネコ君は,今に至り,多くの視覚障碍者がナンセンスと感じていることについて,本当にナンセンスなのかな?と思い直すようになりました。
 視覚に障害があるということは,目の見えている人と同じことを同じように……とはいきません。しかし,スモールステップの積み重ねで,目が不自由でも,さまざまな能力を磨くことができて,それがその人の生きる喜びに結び付くのだと考えるようになりました。
 ということで,今のドラネコ君の夢は,四人一首を入り口として百人一首の世界と出会った視覚障碍者が,それぞれの日々の取り組みの積み重ねで,その先に新たな楽しみや目標を見出し,人生を豊かにしていくことです。
 この夢を実現させるため,ドラネコ君は,視覚障碍者が独力で百人一首の楽しみを広げられる環境を,自分のできる方法を駆使しつつ形にしていきます。
 その先に,みなさんと,インターネットの世界ではなく,実際に会して,一緒に百人一首の世界を楽しみつくせたらいいと,ドラネコ君は願っています。