『リゴレット』を演じるにあたって
 リゴレットは,侯爵に仕える背むし(背骨が曲がり,背中に大きなコブができているように見える病気)の道化師です。卑屈で下品で薄汚く,皮肉たっぷりの言い回しで人々の嘲笑を誘い,周りから嫌われています。
 そんなリゴレットには,ジルダというとてもかわいらしい一人娘がいます。そして彼は,ジルダの前ではとてもやさしい父親に変身します。
 そんなリゴレットを演じるにあたり,まず考えたことは,
<どういう経験をすると,こういう人格が出来上がるのか>
ということです。
 練習を積み重ねる中で,歌詞の内容にちりばめられた過去の回想シーンを手掛かりに,若かりし頃のリゴレット像が見えてきました。
 おそらく彼が<せむし状態>だったのは,幼い頃からのことです。異質な見た目のため,周りから気持ち悪がられたり,石を投げられたり,唾を吐きかけられたりしていたかもしれません。
 そんな状態で生き続ければ,卑屈にもなります。生き地獄のような日々の営みの中で,リゴレットは,その心の痛みを理解してくれる女性と出会い,ジルダを授かります。しかしその女性は,ジルダを産んで間もなく亡くなっていることから,かなりの病弱,あるいは不治の病に侵されていたと考えられます。
 妻との出会いにより,人の温かさに初めて触れたリゴレットは,娘のジルダに最愛の妻の面影を重ね,大切に育てたのでしょう。
 そんなリゴレットを,マントバ侯爵が自らの宮殿に道化師として雇い入れます。その時の侯爵の腹の内には<こんなにも醜い人間に活躍の場を作っている俺は,素晴らしい人間だろう?>という思いが満ち満ちています。
 リゴレットはそのことを重々知りつつも,ジルダを守るために,さまざまな屈辱に耐えながら,自虐的な言動で公爵を笑わせ続けます。そしてふと,そんな自分の醜さを省みながら,その醜さの根源を周りのせいにして毒づいたりもします。
 反面,最愛の娘ジルダには,その醜さを見せまいと,ジルダの前ではとてつもなくやさしい父親に変身します。
「俺がこんなにも醜い姿になったのは,いったい誰のせいだ!てめえらに噛みついてみてえもんだ!」
「でも俺は今から,清い心に生まれ変わる」(『パーリッシアーモ』より)

 私は今回,リゴレットを演じることで,一人の人間の内面の裏表,醜さとやさしさを,全力で演じます。