童話の背景(執筆:南沢 創)
みなさんは「ゴンズイ」という魚を御存じですか?ゴンズイは日本の沿岸ならどこにでもいる猛毒魚です。どのくらいの毒かといえば,刺されたら死んでしまうかもしれないくらいの強い毒です。
みなさんは毒蛇の毒の恐ろしさを知っていますね?マムシとかハブとかに噛まれたら,ヤバいっしょって知っています。でも,このゴンズイの毒は,ハブやマムシと同じか,あるいはそれ以上の強さだということは,ほとんど知られていません。しかもゴンズイは,岸から釣り竿を出すと,どこでも釣れてしまいます。
私が本格的に海釣りを始めたのは,目が見えなくなった後のことです。今から15年くらい前のことでしょうか。妻に連れられて,神奈川県の真名瀬の港近くを散歩した時,たくさんの人たちが魚釣りを楽しんでいました。
私は目が見えていた頃,池や川,沼で魚釣りを楽しんだことを思い出し,魚釣りをやってみたくなり,近くに合った釣具屋さんでおもちゃのような釣り道具を手に入れてきて,海に糸を垂らしました。
その時に初めて釣ったのが,大きなゴンズイでした。
周囲の釣り人は,私の竿先から伸びる釣り糸に引っ張られて,海から上がって来た魚の顔を見ても,全くの無反応でした。まるで,駅のホームで大勢の人の目野前で,目の不自由な人がホームに転落するのを誰も止めない如くに,その無関心ぶりは見事でした。
でもその時,ただ一人だけ,遠くから声をかけてくれた中学生がいました。
「おじちゃん,その魚,触っちゃダメ,触ったらおじちゃん死んじゃうから!!」
中学生はそう叫んで,遠くから私のところに駆け寄りました。
こうして私は事なきを得ました。
それから15年,私はさまざまな釣りをしました。時には漁船に乗り,そして時には三重で見つけた海辺の旅館のほとりで,さまざまな魚を釣りました。
終いには手元に伝わってくる感覚だけで,何が釣れたか分かるまでになっていました。
ゴンズイもしこたま釣りました。ゴンズイのおいしさを教えてくれたのは,三重県伊勢市の宿,檜扇荘の料理長でした。
宿の前で釣れたゴンズイを,蒲焼にして食べさせてくださったのです。いやぁそのうんまいのなんのって,ウナギの蒲焼を凌駕する味でした。
童話の舞台ですが,実は沼津港の鉄屑の詰め込み場所です。
3年ほど前のこと,妻と,妻の友人二人と,私の4人で,妻の友人の運転する車に乗って,沼津においしいお魚を食べに行きました。
沼津港にはたくさんの釣り人がいて,たまたま車のトランクに釣り竿が何本も積んであるというものだから,早速みんなで釣りをすることにしました。しかし,竿を出せそうなところは鉄屑の詰め込みスペースしかありません。
私は仕掛けを決める際,鉄屑運搬船が停泊できる場所なら,足元の水深は10メートル以上あり,しかも底には積み込みの際にこぼれおちた鉄くずが堆積しているだろうと思いました。そういう場所にカワハギが泳ぐ様子が思い浮かんだところで,私の手にカワハギ仕掛けが触れました。
他の三人が,周囲の釣り人に倣って,ちょい投げでキスを狙いはじめる中,私は一人,足元にカワハギ仕掛けを沈めました。
この時の私の読みは大当たりで,私は手品のようにカワハギを釣りまくりました。全体的にほとんど釣れていない中,一人,次から次へと釣りまくる私の周囲には,ギャラリーが集まってきました。
しばらくそんなことをしているうちに,ややや,ゴンズイの魚信が来ちゃった……みたいな。
その時,『ゴンズイがくれた夢』の構想が沸き上がってきました。
童話の中に登場する小学五年生の辰夫君(健常者)は,母親に手を引かれて釣りをする目の不自由な少年に興味をもちつつも,どう関わっていいか分からずに,声をかけることができません。
そんな時,目の不自由な少年の竿にゴンズイがかかります。辰夫君は,目の不自由な少年がゴンズイの毒針に刺されてしまうことを想像し,何とかしなければいけないと思いつつ,どうすることもできません。
その現状を打破したのは,辰夫君のお父さんです。辰夫君はお父さんと目の不自由な少年との関わりを見て,将来の夢を見つけます。
その日の帰りにお父さんが辰夫君にかけた一言で,辰夫君の未来という大海原に,たくさんのタイが泳ぎ始めます。それはいったいどんなタイだったのでしょうか……。
といったところで,童話没原稿をお楽しみください。
○没原稿本文へジャジャジャジャァん♪
ついでに私が目の不自由な方々の楽しみを広げる目的で,カワハギ釣りについて書いた文章がありますので,お読みください。
○目の不自由な方々にお楽しみいただけるカワハギ釣りのすすめ!!